久々に星5つ付けてしまいました。それぐらい面白かった本です。「松田聖子と中森明菜」(中川右介・著) 。先に書いときますが、70年代終わりから80年代にかけての歌謡界をリアルに見ていた人は必見。絶対に面白いです。(※星5つは前記事のコメントより前に付けてます。気兼ねしてじゃないですよ。)
松田聖子と中森明菜。相反する思想と戦略をもった2人の歌姫は、背後で蠢くレコード会社や芸能プロ、作詞家らの野望をすり抜け、いかに生き延びたのか? 歌番組の全盛時代を生きたアイドル歌手の闘争と革命のドラマに迫る。
「松田聖子と中森明菜」、今思えば、この二人は同時代の「歌手」に比べ「別格」でした(男性及びジャンル違いは別にして)。それはこの本にある二人のレコード売上総額でもわかりますが、もっと別な「歌手としての存在感」もあったかと思います。
著者の中川氏は1960年生まれということで、私より少し年上であり、より冷静に時代を見ていたんだろうと思います。だから、この本のような考察ができるのでしょう。私は当時、あるがままを受け入れるだけでした。なので、この本を読むということは、当時の記憶を呼び覚ますとともに、なるほどそうだったんだという謎解きにもなりました。
まず「松田聖子」。とにかく歌が上手かったんです。後から作られたイメージやスキャンダルなんかに騙されがちですが、この本にある通り「その歌声を聴いてもらえないことには、彼女は勝負できな」かったんです。飛び抜けて歌が上手かったから、スターになれた。当時から今までずっとファンでい続ける人たちは【歌手】「松田聖子」のファンなんですね。これは女性が多いです。
この本の通り、時系列に追っていけばわかります。資生堂エクボのCMでは画面に出られなかった。「史上初めて、顔ではなく声が先に認識されたアイドル歌手」だったんです。我々はスターになった「松田聖子」を知っているから驚きませんが、実は凄いことです。凄過ぎて誰も気付かない事かも知れません(気付いた著者は偉い!)。
ザ・ベストテンでの初登場は枠外だった-今週のスポットライトで、10位に入った岩崎良美さんと一緒に出てきたのを覚えてます。何故「松田聖子」の方が順位が下なのか不思議でした。そして、「青い珊瑚礁」。後はトップまでまっしぐらでした。
そう、ザ・ベストテンという歌番組によってシビアなランク付けが公開されたことで、「既存の歌謡界の序列が崩壊」した中で歌う彼女。そして、レコード大賞という権威を、大賞が取れないことで逆説的に破壊していく彼女。「審査員たちは規制レコード業界にどっぷりとつかっていたので演歌という旧態依然とした曲を支持する傾向が強」かったので、「レコード大賞はその権威をゆっくりと失墜させて」いった-当時はそんな事は思いませんでしたが、確かにその頃からレコード大賞はつまらなくなったと思います。大賞を誰が取るかではなく、お気に入りの歌手を見るようになったのはこの頃からで、既に惰性=年末の恒例行事としての価値しかない番組だったかも知れません。
「松田聖子」で思い出されるのはあとふたつ。ひとつは、「赤いスイートピー」。「女性たちが『聖子は嫌いだけど、聖子の歌は好き』になる転換点に位置する」曲です。この曲が流行った頃、芸能関係に強い先輩(女性)に、この歌の作曲者「呉田軽穂」が「松任谷由美」のペンネームだと聞かされ衝撃を受けました。この本の中に「松任谷由美の起用は、人々のあいだに『ユーミンが松田聖子を認めた』という静かな驚きを生んだ」とありますが、正にそうだったんです。本当かどうかは知りませんが、その先輩からは同時に「最初は違う歌い方をしていたが、松任谷由美が少しアドバイスしたらすぐその通りに歌いこなした」という話も聞きました。「松田聖子の声は、他に誰もいない唯一の声質だ」と聞いたのもその先輩でした。
もうひとつは「SWEET MEMORIES」ですね。缶ビールのCMで、かわいいアニメのバックに流れる曲。全て英語で、誰が歌っているのか最初は全くわかりませんでした。暫くしてから、問い合わせに対応したのかテロップで「歌:松田聖子」って出るようになってビックリした記憶があります。「顔」ではなく「歌」。本の中で「重要なのは、松田聖子が歌っているという先入観なしに聴いた人々が、いい曲で、いい歌手だと認めたこと」とありますが、私もそう思います。
さて、「中森明菜」についてですが、当時はわからなかったけど、この本を読むと一気に上り詰めてるんですね。こちらは85、86年にレコード大賞を受賞しますけど、女王の座はデビューして1年ぐらい、83年ぐらいには掴んでた感じです。
こちらも、歌が上手かったです。顔は、小泉今日子の方が絶対にかわいかったと思いますが、歌手としては圧倒的に「中森明菜」の方が上でした。
いちばん印象に残ってる歌は「セカンド・ラブ」です。この本では、かなり松本隆さんを褒めてますけど、この歌も凄いです。「抱き上げて つれてって 時間ごと」ですよ。時間ごとつれてくって、どんな発想だと。それで、これをしっとりと歌う「中森明菜」も凄い。この本に「少年たちは中森明菜が不良の演技をしていると見抜いていた」とありますが、私もその「少年たち」の一人であり、だから不良っぽい歌よりも(それはそれで良いのですが)、こちらの方が好きなんだと思います。
それで、「セカンド・ラブ」は初期の作品ですが、その後の歌はどうなのかというと、聞いてはいたんだけど印象が薄い...という感じです。世界めぐりシリーズとか、確かに聞いていたと思うんですが、その辺りの記憶ってブッツリ途切れてるんです。
「松田聖子」が結婚するちょっと前、中森明菜が独走し始めてまもなく、環境の変化によって私は歌番組を見なくなってしまいました。それはたぶん同時代の男性の多くがそうであり、この本でもその時期から先の記述がどんどん淡白になっていきます。二人の求心力が無くなったのか、歌番組が役割を終えたのか、定かではありませんが。
とは言え、同時代のアイドルたちが皆「歌手」ではなく「タレント」を選択してい中で、二人ともその後もヒットを飛ばし、役者もこなし、相変わらずスターであり続けています。二人とも素晴らしい歌手でしたし、その二人に楽曲を提供した人々も素晴らしかった。そういう意味で、良い時代を過ごしたのだなと再確認させられる、「松田聖子と中森明菜」とはそういう本でした。
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